90年代後半に中高生だった人なら、この名前を見ただけで一気に記憶が戻ってくるかもしれない。
『東京ストリートニュース!』。通称「ストニュー」。
ルーズソックス、ポケベル、PHS、プリクラ、センター街。DJやダンスが妙にカッコよく見えて、有名高校の文化祭に人が押し寄せ、なぜか他校のスクールバッグまで欲しくなる。
そして誌面の中心にいたのは、芸能人でもプロモデルでもない、普通……と言うにはちょっとギラギラしすぎていた高校生たちだった。
「V.I.P高校生」「スーパー高校生」と呼ばれた、あの人たちである。
今考えると、高校生がグッチのローファーを履いてロレックスを着けている時点で「お前ら一体どこから金が出てるんだ」と言いたくなるのだけれど、当時はそれすら含めて東京の高校生文化だった。

ストニューに出てくる高校生、同じ高校生とは思えなかったんだよね。
そもそも『東京ストリートニュース!』ってどんな雑誌だった?
『東京ストリートニュース!』は、首都圏の高校生を中心に取り上げたストリート系雑誌。
国立国会図書館の書誌情報では、出版者は「学習研究社」、刊行期間は1994年から2000年。1998年5月からは月刊となり、2000年9月号を最後に『Stonew』へと引き継がれている。
資料によって「1995年創刊」と紹介されることもありますが、国立国会図書館では出版年を「1994-2000」と記録しています。
実は発行していたのは「あの学研」
今あらためて見ると、個人的に一番「えっ?」となるのがここ。
ストニューを出していたのは学研だった。
学研と聞くと『学習』『科学』や参考書、図鑑、教育系の出版社というイメージが強い。
その学研が、グッチのローファーを履いた高校生やDJ、ダンサー、有名高校の文化祭、街で遊ぶ高校生たちを追いかけていたのである。
しかも初期のストニューは、同じ学研のティーン誌『Lemon』の別冊という扱いだったことも国立国会図書館の記録に残っている。
学校の図書室に置いてありそうな出版社と、90年代の渋谷・原宿・池袋。その組み合わせが今見ると妙に面白い。
『egg』と同じようで、実はかなり違った


90年代の高校生雑誌といえば、『egg』『Cawaii!』『Popteen』を思い浮かべる人も多い。
『egg』も1995年創刊。当初は街で見つけた女の子のスナップから始まり、やがて渋谷の女子高生やコギャル、ガングロ文化を象徴する雑誌へと成長していった。
一方のストニューは、同じストリート系でも少し違う。
ストニューは「女子高生のファッション誌」というより、「東京周辺のイケてる高校生そのものを観察する雑誌」に近かった。
男子も女子も出る。服だけではなく学校名も出る。文化祭も追う。放課後どこに集まっているか、誰がDJをやっているか、どんな音楽を聴いているか、誰が人気者なのかまで誌面になる。
今に置き換えるなら、InstagramとTikTokとファッション誌と学校情報サイトとイベント告知を全部一冊に突っ込んだようなもの。
ただし、そこには「フォロワー数」がなかった。
代わりにあったのが、学校名とニックネームと街での知名度。そして「ストニューに載っている」という強烈なステータスだった。
V.I.P高校生――今見ると、とにかく金を持っている


ストニューを思い出して、まず浮かぶのが「V.I.P」と呼ばれた人気高校生たち。
特に90年代後半は、有名私立校や大学付属校の高校生が誌面で目立った。
そして服装が高校生とは思えない。
当時の誌面には、グッチ、プラダ、ロレックスといった高級ブランドが普通に登場する。1997年の号には「今、みんなが欲しいモノ」を扱う企画でこうしたブランドが並び、妻夫木聡が「VIP MAN」として紹介された号も確認できる。
今の感覚で見れば、「高校生がなんでそんなもん持ってるんだ」である。



バイト代だけでは説明がつかない装備の高校生、確かにいた。
もちろん、ストニューに出ていた高校生全員がお金持ちだったわけではない。
ただ、有名私立校や大学付属校の生徒が目立ち、高級ブランドを取り入れた「キレイめ」が流行していたため、誌面全体から漂う“東京の裕福な高校生をのぞき見している感”はかなり強かった。
有名高校そのものがブランドになっていた
さらに不思議なのが、モデル本人だけでなく「高校そのもの」まで人気になったこと。
昭和第一、法政系など、人気高校生がいる学校の文化祭には女子高生が集まり、その学校のスクールバッグまで人気商品になった。
他校の生徒なのに、人気校のスクールバッグを手に入れて使う。
今考えるとかなり謎の文化なのだけれど、当時は学校名そのものが一種のブランドだった。
人気者が着ている服を真似するだけではなく、人気者が通っている学校のバッグまで欲しくなる。
SNSのない時代なのに、今のインフルエンサー文化とほとんど同じことが起きていたのがおもしろい。
ポケベル、PHS、公衆電話。連絡ひとつにも「90年代」があった


ストニューを懐かしく感じる理由は、服や髪型だけではない。
誌面が存在した数年間は、ちょうどポケベルからPHS、そして携帯電話へと高校生の連絡手段がものすごい勢いで変わった時期でもある。
待ち合わせに遅れたら、とりあえず駅の公衆電話。
ポケベルに数字を送る。PHSを持っている友達がちょっと羨ましい。プリクラ帳には友達の写真と電話番号。
「今どこ?」と聞けば位置情報が一瞬で返ってくる時代ではない。
だからこそ、渋谷のセンター街や池袋、新宿など、「とりあえず行けば誰かいる場所」が今よりずっと重要だった。
ストニューは、そんな街に実際に集まっていた高校生をそのまま紙へ閉じ込めていた。
では、あのV.I.P高校生たちは今何をしている?
ここで気になるのが、当時誌面を賑わせていた高校生たちの現在。
実はストニュー自身が、2012年に一度この企画をやっている。
Gakkenから発売された『東京ストリートニュース!2012』は、当時誌面に登場していた高校生たちの「その後」を追うため、1号限りで復活した特別号だった。
もちろん、ストニューに登場した著名人が全員「V.I.P高校生」だったわけではない。
ここでは、V.I.Pとして人気だった人物に加え、ストニュー誌面に登場し、その後それぞれの分野で活躍している人物も含めて見ていきたい。
| 名前 | ストニュー時代 | 現在 |
|---|---|---|
| 妻夫木聡 | V.I.P高校生を代表する存在 | 俳優。2026年現在も映画・ドラマで第一線 |
| 弓削智久 | 「ユゲっち」として人気のV.I.P高校生 | 俳優として活動。脚本も手掛ける |
| 忍成修吾 | ストニュー読者モデル | 俳優として長く活動 |
| 青木裕子 | 高校生時代に誌面へ登場 | 元TBSアナウンサー。現在はフリーアナウンサーなどとして活動 |
| 四宮浩二 | ストニュー誌面に登場。2012年復刊号にも掲載 | 株式会社エージェント代表取締役。上場企業の経営者に |
| 戸田さと美 | 高校時代にストニュー読者モデルとして活動 | PR・マーケティングを手掛けるPETAGO株式会社代表取締役 |
| 遠藤海周 | ストニューに登場。2012年復刊号にも掲載 | 遠藤製餡専務取締役、BeansPLUS代表 |
| 菅原聡介 | ストニュー誌面に登場。2012年復刊号にも掲載 | 社会保険労務士。Scalar株式会社執行役員 |
| 平澤仁見 | ストニューに登場 | ファッションブランド「Noela」のチーフデザイナーとして活動 |
| 奥田恵梨華 | ストニューに登場 | 俳優として活動 |
| 臼田あさ美 | 10代で読者モデルとして活動 | 俳優として活動を継続 |
こうして並べてみると、かなり面白い。
妻夫木聡や弓削智久のように、そのまま芸能界へ進み20年以上第一線で活動している人がいる一方、アナウンサー、会社経営者、企業役員、ファッションデザイナーなど、進んだ道は驚くほどバラバラだ。
なかでも興味深いのが、芸能界とはまったく違う世界で成功している人たちもいること。
四宮浩二は株式会社エージェントの代表取締役となり、会社は株式市場へ上場。
戸田さと美はPR・マーケティング会社を経営し、遠藤海周は食品メーカーの専務取締役、菅原聡介は社会保険労務士や企業役員として活動している。
平澤仁見のように、誌面でファッションを見せる側から、ブランドを作る側へ進んだ人物もいる。
ストニューに載っていたのは、最初から芸能人になることを前提に集められたタレントの卵ばかりではない。
その時代の東京で「ちょっと目立っていた」「ちょっとカッコよかった」普通の高校生たちも大勢いた。
だからこそ、その後も俳優になる人、会社を作る人、企業で出世する人、まったく別の人生を歩む人と、それぞれ違う。
「あの頃の有名高校生たちは今どうしているのか?」という問いの答えが、芸能人の一覧だけでは終わらない。
そこまで含めて見ると、ストニューという雑誌が記録していたものは、単なる高校生ファッションだけではなかったのかもしれない。誌ではなく、その辺にいた高校生が、雑誌に載ったことで突然「有名高校生」になってしまうところにあった。
2012年、一度だけ復活していた
ストニューには、もうひとつ忘れたくない後日談がある。
2012年1月、Gakkenから『東京ストリートニュース!2012』が発売された。
128ページの一冊で、当時V.I.Pと呼ばれたスーパー高校生、ニューフェイス、人気男子校などを改めて追跡。「高校生だった彼らは30歳前後になってどうしているのか」を取り上げた、ほぼ公式同窓会のような本だった。
つまり2012年の時点ですでに、みんな同じことを考えていたのである。
「あいつら今、何してるんだろう?」
高校時代に雑誌を開いて憧れていた読者も30代。当時誌面に出ていた本人たちも30代。
あの一冊は雑誌の復活というより、巨大な卒業アルバムを十数年ぶりに開いたような企画だったのかもしれない。
ストニューを見ると、90年代の「高校生が主役だった時代」を思い出す


ストニューを今読むと、流行している服が古いとか、髪型が懐かしいとか、もちろんそういう楽しさもある。
でも、それだけではない。
あの雑誌から伝わってくるのは「高校生であることの価値が今よりも遥かに高かった時代」の空気だ。
高校生が街に集まり、高校生が流行を作り、高校生を見るために文化祭へ行き、高校生の服装を別の高校生が真似する。
芸能人でもない同年代の誰かが、次の号では突然スターになっている。
スマホもSNSもなかったのに、噂と雑誌だけで人気者が生まれていた。
そして発売日になると、本屋やコンビニで新しい号を買う。
ページを開けば、先月まで知らなかった高校生の顔が載っている。
今なら数秒で流れて消えてしまいそうな一瞬が、紙の雑誌だから何十年も残った。
ストニューはファッション誌というより、90年代後半の高校生たちを丸ごと保存したタイムカプセルだったのかもしれない。
あの頃の高校生は、もう40代になった
ストニューの中心にいた1979~1982年前後生まれの世代は、今では40代半ば。
グッチのローファーで文化祭へ行っていた男子も、ルーズソックスで人気校のスクールバッグを探していた女子も、普通に考えれば子どもが高校生になっていてもおかしくない年齢になった。
それでも『東京ストリートニュース!』という名前を見ると、公衆電話の緑色やポケベルの数字、駅前で何時間もしゃべっていた夕方の空気まで妙に鮮明に思い出す。
雑誌はなくなった。
センター街も、制服の着こなしも、高校生の連絡方法もすっかり変わった。
でも、ページの中にいる彼らは今も高校生のまま。
たぶん、それが古い雑誌を久しぶりに開いた時に、どうしようもなく懐かしくなる理由なのだと思う。

コメント