【0840って読める?】令和の子に贈る「ポケベルにまつわるエトセトラ」数字の暗号から3470まで

「ポケベル」って知っていますか?

令和の10代、20代だと、名前は聞いたことがあっても「で、結局なにができる機械なの?」という人も多いかもしれません。

スマホより前。ガラケーよりさらに前。

電話もできない。自分から返信もできない。初期のものは文字すら表示できない。

そんな小さな機械が、1990年代には若者の必需品となり、1000万件を超える契約を集めるほどの大ブームになりました。

しかも面白いのが、もともとポケベルは若者同士がおしゃべりするために作られたものではなかったこと。

数字しか表示できないなら数字で会話すればいい。文字が打てるようになったら猛烈な速度で打てばいい。

限られた機能を若者たちが勝手に遊び倒した結果、いつの間にか平成を代表するコミュニケーション文化へ。

10円玉とテレホンカードを持って、公衆電話へダッシュ。

今回はそんなポケベルにまつわるエトセトラを、数字の暗号時代からカタカナ時代、そして本当にベルが鳴らなくなった日まで追いかけます。




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目次

そもそもポケベルって何?令和の言葉で説明すると…

ポケベルの正式名称は「ポケットベル」。一般的には「ページャー」と呼ばれる種類の無線呼び出し端末です。

ものすごく乱暴に令和の感覚へ置き換えるなら、「通知を受け取る機能だけを取り出したスマホ」のようなもの。

できることポケベルスマホ
通知を受け取る
文字を見る機種・時代による
その場で返信する×
電話する×
写真を送る×
ネットを見る×

「じゃあ何が楽しいんだよ」と思った令和の皆さん。

ごもっともです。

返信できないメッセージ端末が1000万契約超えたって、今考えるとなかなかすごい話。

最初のポケベルは「会社に電話しろ!」と呼び出す機械だった

日本でポケットベルのサービスが始まったのは1968年7月。

当時の電電公社が始めたサービスで、最初から女子高生が「0840♡」なんて送り合っていたわけではありません。

初期のポケベルは本当にシンプル。

呼び出されると「ピーピー」と鳴る。それだけ。

外回りをしている営業マンや、いつ呼び出されるか分からない仕事の人が持ち歩き、ベルが鳴ったら公衆電話などを探して会社へ電話する。

今ならスマホに「至急会社へ電話してください」と通知が来るところを、「とにかく鳴らすから察して電話して」という豪快な仕組みだった。

その後、1980年代になると液晶画面に数字を表示できるタイプが登場。

本来は「03-XXXX-XXXXへ折り返してください」といった電話番号を伝えるための機能でした。

ところがここから、歴史がちょっと変な方向へ走り始めます。

「数字が表示できるなら、数字で言葉を作れるんじゃない?」

そう考えた若者たちが現れました。

そしてポケベルは、仕事道具から青春アイテムへ。

0840=おはよう!数字だけで会話する「ポケベル語」が誕生

数字しか表示できない。

普通ならそこで諦めそうなものですが、当時の若者は諦めません。

数字の読み方や形を組み合わせ、数字そのものを言葉として使い始めます。

ポケベル語意味
0840おはよう
0833おやすみ
49至急
0906遅れる
999サンキュー
4649よろしく
724106何してる
14106愛してる
3470さよなら

特に有名なのが「0840=おはよう」「14106=愛してる」あたり。

数字の読み方をかなり強引に曲げているものもあります。

でも、それでいい。

仲間同士で意味が通じれば、それはもう立派な言葉です。

今だって「草」「w」「り」「8888」なんて、知らない人から見れば意味不明。

ネットスラングが生まれるずっと前から、若者は通信機器の中で勝手に新しい言葉を作っていたわけです。

※ポケベル語には地域や友人グループなどによって異なる読み方・表現もあり、すべてが全国共通だったわけではありません。

「14106」だけ突然送られてくる青春、ちょっと経験してみたい気もする。

しかも送信するには電話が必要だった

ここが令和世代には一番ややこしいところかもしれません。

ポケベルを持っている本人は、そのポケベルからメッセージを送れません。

相手のポケベルへ何か送りたければ、固定電話やプッシュ式の公衆電話から相手の呼び出し番号へ電話し、数字を入力します。

そして受け取った側が返事をしたければ、その人もまた電話を探してメッセージを送り返す。

学校の休み時間になれば公衆電話へ。

駅に着けば公衆電話へ。

彼氏からベルが入れば公衆電話へ。

今ならベッドの中でLINEを返して終わる話に、当時は軽く運動が発生します。

そのため学校や駅の公衆電話に、ポケベルを打ちたい若者の列ができることも珍しくありませんでした。

テレホンカードが妙に大事だった時代です。

ついにカタカナが送れる!暗号解読ゲームから本物のメッセージへ

そんな数字暗号の世界にも技術革新がやってきます。

1994~1995年ごろには、数字だけではなくカタカナや記号を表示できるポケベルが広がっていきました。

これで「14106」を見ながら「えーっと、1がアイで4がシで……」と解読する必要はありません。

画面に普通に「アイシテル」と出せます。

未来です。

1995年の未来です。

ただし入力方法には、また独特の文化がありました。

代表的なのが、いわゆる「ポケベル打ち」「2タッチ入力」

入力文字
11
12
13
21
22
23

1桁目で「あ行・か行・さ行……」、2桁目で「あ・い・う・え・お」の位置を指定する方式です。

慣れた人はこの数字の組み合わせを丸暗記。

電話のテンキーをほとんど見ず、とんでもない速度でメッセージを打てる人まで現れました。

この入力方法はポケベルが衰退した後も「ベル打ち」「2タッチ入力」として携帯電話に受け継がれています。

つまりガラケーで超高速メールを打っていた人の中には、ポケベル時代に鍛えられた指を持つ人もいたということ。

さらに1996年には、ドコモが漢字表示にも対応するサービスを開始。

「鳴るだけ」だった機械は、わずか数年でかなり立派な文字端末へと進化していきました。

「ポケベルが鳴らなくて」――タイトルだけで意味が通じた1993年

ポケベルが単なる通信機器を超え、完全に若者文化へ入り込んでいたことが分かる象徴的な作品があります。

それが『ポケベルが鳴らなくて』

1993年に日本テレビ系で放送された同名ドラマの主題歌として、国武万里が歌った曲です。

作詞は秋元康、作曲は後藤次利。1993年7月21日に発売され、50万枚を超えるヒットとなりました。

今の若い人からすると「ポケベルが鳴らないから何なの?」となりそうですが、当時はタイトルだけで感情が伝わります。

ポケベルが鳴らない。

つまり、待っている相手から連絡が来ない。

「今日は連絡くれるはずだったのに」

「嫌われた?」

「ほかの誰かと一緒にいる?」

令和風に無理やり置き換えるなら、「LINEが来なくて」「既読にならなくて」あたりに近い感覚でしょうか。

便利な通信機器が一つ増えると、それと一緒に新しい恋愛の悩みまで増える。

このあたり、人類は30年以上たってもあまり進歩していません。

1990年代半ば、ポケベルは1000万契約を超える

数字暗号、カタカナ表示、2タッチ入力。

若者向けのコミュニケーションツールとして進化したポケベルは、1990年代半ばに全盛期を迎えます。

1995年度末には国内の加入契約数が1061万件を超えました。

もともとは外回りの会社員を呼び出すための機械。

それを若者が数字暗号で遊び始め、いつしか女子高生が公衆電話から友達や恋人へメッセージを送りまくる機械になる。

メーカー側が「こう使ってください」と想定した使い方より、利用者が勝手に考えた使い方の方が大流行してしまった好例です。

ポケベルの面白さは機械そのものより、「数字しか出ないなら数字で会話しよう」と若者が独自の文化を作ってしまったところにある。

「ベル友」という言葉も生まれました。

今ならSNSで知り合った「ネット友達」に近い感覚ですが、ポケベルを通じてメッセージを交換する友達です。

連絡先を交換するという行為そのものが、今より少し特別だった時代でもあります。

ところがPHSと携帯電話がやって来た。ポケベルの天下は意外と短かった

1000万契約を突破し、絶好調に見えたポケベル。

しかし最大の弱点は最初から変わりません。

ポケベルだけでは返信できない。

そんなところへ1990年代半ばからPHS、いわゆる「ピッチ」が普及し、携帯電話もどんどん身近になってきます。

相手から連絡が来る。

その場で電話できる。

公衆電話まで走らなくていい。

そりゃ強い。

さらに1999年にはNTTドコモの「iモード」が始まり、携帯電話でメールやインターネットを利用する時代へ突入します。

数字だけで「14106」と愛を伝えていた数年前から考えると、通信環境の進化速度がものすごい。

ポケベルの契約数は急速に減少していきました。

2007年にドコモ終了。でもポケベルはまだ死んでいなかった

NTTドコモでは、ポケットベルから名称変更した「クイックキャスト」のサービスを2007年3月31日に終了しました。

ここでポケベルの歴史も終了……と思いきや、まだ続きます。

東京テレメッセージが「マジックメール」というポケベルサービスを一都三県で継続していたのです。

そして最後のサービスが終了したのは――

2019年9月30日。

そう。

令和です。

完全に平成の機械だと思っていたら、令和まで電波が飛んでた。

サービス開始は1968年。

そこから約半世紀。

外回りの会社員を呼び出し、女子高生の恋愛を運び、「0840」や「14106」を飛ばし続けたポケベルは、2019年になってようやく日本から姿を消しました。

サービス終了を伝えるニュースで使われたポケベル語が、これまた実にきれい。

3470。

「さよなら」です。

不便だったから面白かった?今見るとポケベル文化はかなり不思議

ポケベルをスマホと比べれば、不便どころの話ではありません。

写真は送れない。

動画も送れない。

電話もできない。

返信するには別の電話が必要。

最初は文字すら送れない。

なのに、その制限があったからこそ「数字を言葉にする」という文化が生まれました。

そして、相手から連絡が来るか分からないから何度もポケベルを眺める。

ベルが鳴ればうれしい。

鳴らなければ不安になる。

考えてみれば、スマホを何度も開いて通知を確認する今の私たちと、やっていることはあまり変わりません。

既読もない。

オンライン表示もない。

位置情報共有もない。

それでも誰かから連絡が来るのを待っていた。

通信機器はずいぶん賢くなりましたが、「好きな人から連絡来ないかな」と気にする人間の方は、1993年からそれほど変わっていないようです。

0840から14106、そして3470へ

1968年、ただ「ピーピー」と人を呼び出すだけだったポケットベル。

そこへ数字表示が加わり、若者が勝手に暗号を作り、カタカナが送れるようになり、恋愛ドラマのタイトルにまでなりました。

そしてPHSと携帯電話に追い抜かれ、スマートフォン時代を横目に見ながら2019年まで生き残った。

わずかな文字を送るだけでも、公衆電話まで行かなければならなかった時代。

令和から見ると面倒くさい。

でも、その面倒くささの中から数字暗号やベル友、ポケベル打ちといった妙な文化が次々と生まれました。

0840――おはよう。

14106――愛してる。

そして3470――さよなら。

たった数桁の数字に、友達との会話も恋愛も待ち合わせも全部詰め込んだ時代が、確かにありました。

今夜LINEを送るとき、ほんの一瞬だけ考えてみてください。

これを「724106」と送っていた人たちがいたんだな、と。

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