1996年に発売され、あっという間に日本中を巻き込んだ「たまごっち」。1990年代に青春時代を過ごした人なら、なかなか買えなかったあの騒ぎを覚えているのではないだろうか。
私も高校生の頃、クラスメイトと入荷の噂を聞きつけて店に並んだ一人。しかも苦労して手に入れたのは、特に人気が高いと言われた「白」だった。それから約30年。たまごっちはゲームソフトや通信機能、カラー液晶へと進化し、いま再び人気を集めている。あの小さなたまご形のおもちゃは、どうやってブームを繰り返してきたのだろう。
2026年11月23日、たまごっちは発売30周年を迎える。せっかくなので、初代の争奪戦から歴代のゲーム、令和のリバイバルまで振り返ってみたい。
1996年、初代「たまごっち」が誕生
初代「たまごっち」の発売日は1996年11月23日。卵のような小さな本体と、白黒の液晶画面、3つのボタンという実にシンプルな作りだった。発売当時の希望小売価格は税別1,980円。つまり、おおむね2,000円のおもちゃである。
遊び方は、画面の中の生き物にごはんをあげ、うんちを片付け、病気になれば治療して、成長を見守るというもの。お世話の仕方によって成長するキャラクターが変わるし、放っておけば死んでしまうこともある。それまでの「決められたステージをクリアするゲーム」とは違って、学校に行っている間も、眠っている間も、ペットとの暮らしが続いていた。
バンダイの30周年に向けた公式発表によると、名前は「たまご」と「ウォッチ」を組み合わせたもの。当初は時計のように身に着ける企画だったという。実際に発売されたのはボールチェーンでバッグなどに付ける形式で、女子高生を中心に人気が爆発した。
人気はメーカーの想定をはるかに超え、発売から1年もたたずに1,000万個を売り上げた。購入できないという問い合わせが1日に1万件を超え、メーカーが謝罪広告を出したほど。ブームは海外にも広がり、世界的なデジタルペットとなっていく。

あの頃は「持っているだけですごい」という空気があった。育て方の前に、まず本体が手に入らないのだから。
たまごっちを買うために行列――噂だけが頼りだった時代


いまなら商品の入荷情報を検索したり、通販サイトの在庫通知を設定したりできる。
ところが当時、少なくとも私たち高校生の間では、そんな手段はなかった。頼れるのは友達や知り合いから回ってくる、出どころもはっきりしない噂だった。
ある日、誰かが「明日、イトーヨーカドーにたまごっちが入荷するらしいよ」と言い出した。そこで私はクラスメイトの友達と一緒に学校をサボって店へ並ぶことにした。確か9時開店だったのだけれど並び初めたのは朝の7時ちょい過ぎ、誰も並んでおらず本当に入荷があるのか不安だった。
しかしその後開店時間が近づくと私たちの後ろにも人が並びはじめ、しかもその日は本当に入荷があり、無事に購入することができた。
噂を信じて並んだ甲斐があったというわけだ。
ところが翌週、また同じように「入荷するらしい」という話が広まったものの、その日は結局入荷がなかったらしい。並んだ人たちは買えずじまい。前の週には当たった情報が、次の週には外れる。噂というのは、そういうものだった。
当時だってインターネット自体は存在していた。ただ、いまのように誰もがスマートフォンで入荷情報を確認できる時代ではない。情報は人から人へと伝わり、真偽を確かめるためには自分で店へ行くしかなかったのである。
先頭に並んでいた為にカラーは各種揃っている中から自由に選べた。
私がその時選んだのは、特に価値が高いと言われていた真っ白のたまごっち。当時は本体の色によって人気に差があり、白はその象徴のような存在だった。
実際たまごっちの買い取りをしていた地元の中古CDショップでも白は5,000円でほかの色は3,000円程度と他のカラーよりも高値で買い取ってくれた。
| 当時の価格 | 金額 |
|---|---|
| 本体の希望小売価格 | 1,980円(税別) |
| 白とその他数種人気カラーの店頭買い取り価格 | 5,000円 |
| ほかの色の店頭買い取り価格 | 3,000円 |
※買い取り価格は筆者が当時、地元のCD店で見た金額。全国共通の相場ではない。
それだけ苦労して買った白いたまごっち。さぞ大切にしたのかと思いきや、購入から約1か月後、どこかで落としてなくしてしまった。



あんなに並んで買ったのに、最後はあっさり紛失。30年近くたっても、そこだけ妙にはっきり覚えている。
もし手元に残っていたら、今も引き出しの中に入っていたかもしれない。いや、そもそも買うまでに苦労した話より、なくした話のほうが長く記憶に残っているのだから、人生というのは分からない。
1997年にはゲームボーイやNINTENDO64にも進出
たまごっちの人気は、小さなキーチェーン型の本体だけにとどまらなかった。ブームの真っ最中だった1997年6月27日には、ゲームボーイ用ソフト『ゲームで発見!! たまごっち』が発売される。
こちらはゲームボーイの画面でたまごっちを育てる作品。本体の小さな液晶とは違い、ゲーム機の画面を使って育成を楽しめる。1997年には続編『ゲームで発見!! たまごっち2』も登場し、翌1998年には『ゲームで発見!! たまごっち オスっちとメスっち』へと展開した。
さらに1997年12月にはNINTENDO64用の『64で発見!! たまごっち みんなでたまごっちワールド』も登場。ひとりで世話する携帯玩具から、テレビ画面を囲んで遊ぶゲームへと遊び方が広がっていった。
ただし、第一次ブームは永遠には続かなかった。需要を読み切れずに品薄となった後、今度は人気の落ち着きとともに在庫が余ることに。バンダイは1999年3月期に約60億円の特別損失を計上したと公表している。あれほど手に入らなかった商品が、今度は余ってしまう。玩具の流行の激しさを物語る数字だ。
2004年の復活、そしてDS「プチプチおみせっち」の大ヒット
赤外線通信で友達とつながる「たまごっちプラス」
一度は落ち着いた人気が再燃したのは2004年。「かえってきた!たまごっちプラス」が登場し、第二次ブームを巻き起こした。大きな変化は赤外線通信機能。自分のたまごっちを育てるだけでなく、友達のたまごっちと通信して交流できるようになった。
第一次ブームの中心が女子高生だったのに対し、今度の中心は小学生。たまごっちは、持っていること自体が話題になる玩具から、友達と遊ぶコミュニケーションツールへと役割を変えていった。
「育てる」から「お店を切り盛りする」ゲームへ
2005年9月15日にはニンテンドーDS向け『たまごっちのプチプチおみせっち』が発売。たまごっちと一緒にケーキ屋や歯医者などのお店を手伝い、店を大きくしていくゲームだった。タッチペンとの相性もよく、携帯玩具とはまた違う楽しさが支持された。
これが単なるキャラクターゲームでは終わらなかった。バンダイによる2006年1月の発表では、国内累計出荷100万本を突破。任天堂以外のメーカーによるDSソフトとして、国内初のミリオンセラーとなった。
以降も2006年『ごひーきに』、2007年『みなサンきゅ~!』、2008年『キラキラおみせっち』などシリーズ化。3DS時代にも新作が作られ、たまごっちは「育成用おもちゃ」の枠を越えたゲームシリーズとして定着した。歴代作品はたまごっち家庭用ゲーム総合サイトで確認できる。
白黒からカラー、そしてネット対応へ――進化する歴代たまごっち
2008年には初のカラー液晶を搭載した「たまごっちプラスカラー」が発売。それまでの白黒ドット絵から、時間帯や季節の変化まで表現できる世界へと進化した。
2009年の「Tamagotchi iD」ではダウンロードによるカスタマイズ、2021年の「Tamagotchi Smart」ではタッチ液晶、2023年の「Tamagotchi Uni」ではWi-Fi機能と、世代ごとに新しい要素が加わっている。
| 年 | 代表的な機種・ソフト | 主な変化 |
|---|---|---|
| 1996年 | 初代たまごっち | 携帯型デジタルペットとして誕生 |
| 1997年 | ゲームで発見!! たまごっち | ゲームボーイで育成ゲーム化 |
| 2004年 | かえってきた!たまごっちプラス | 赤外線通信で友達と交流 |
| 2005年 | たまごっちのプチプチおみせっち | DSでお店屋さんゲームに進出 |
| 2008年 | たまごっちプラスカラー | 初のカラー液晶 |
| 2021年 | Tamagotchi Smart | タッチ液晶を採用 |
| 2023年 | Tamagotchi Uni | Wi-Fiを搭載 |
| 2025年 | Tamagotchi Paradise | ズームダイヤルで生態系まで育成 |
一覧で眺めると、実はたまごっちは「昔流行ったものをそのまま復刻する」だけのシリーズではなかったと分かる。通信技術や液晶の進化に合わせて、小さなペットとの接し方そのものが変わってきたのである。より詳しい製品の変遷はたまごっち公式HISTORYで紹介されている。
令和のリバイバルは「懐かしい」だけじゃない
2020年代になると、平成レトロや「平成女児」文化への注目が高まり、たまごっちにも再び追い風が吹く。昔遊んだ大人が買い直す一方で、初代ブームを知らない若い世代がバッグのアクセサリー感覚で身につけるようになった。
バンダイは2024年以降を「第四次ブーム」と位置づけており、2025年7月末にはシリーズの国内外累計出荷数が1億個を突破。公式発表によれば、関連グッズを含む世界売上(ゲームを除く)は2019年と比べて5年間で約7倍に伸びたという。
初代の雰囲気を楽しめる「Original Tamagotchi」
懐かしさを求める人には、初代や「新種発見!! たまごっち」の欧米版をベースにした「Original Tamagotchi」がある。2022年から日本国内でも販売され、復刻風デザインやコラボ柄など、色や柄を選ぶ楽しみも大きい。
そして2026年9月19日には、初代の白を思わせる「Original Tamagotchi 初代 ほわいと」も登場した。価格は税込3,080円。1996年製の初代そのものではなく、当時のデザインを再現した新しい商品だが、あの白を探し回った記憶のある身には少々気になる存在である。
あの「ケーたま」も復活した
2024年には、2004年の「祝ケータイかいツー!たまごっちプラス」をモチーフにした「Tamagotchi Connection」が発売された。アンテナ付きの形を再現しつつ、当時の人気色を今風にアレンジ。第一次ブームだけでなく、第二次ブームを知る世代にも響く復活である。
「Tamagotchi Paradise」は細胞から宇宙までお世話
もちろん復刻一辺倒ではない。2025年7月12日発売の「Tamagotchi Paradise」は、ズームダイヤルを回すことで細胞から惑星規模まで視点を切り替えながら育てるという、ずいぶん壮大な製品だ。発売時の希望小売価格は税込6,380円。シンプルな3ボタンの初代から考えると、30年近い進化を感じる。
Switchにも「プチプチおみせっち」が帰ってきた
ゲームソフトのほうも復活している。2025年6月26日、Nintendo SwitchとNintendo Switch 2向けに『たまごっちのプチプチおみせっち おまちど~さま!』が発売された。2005年のDS版から続く「お店を手伝う」遊びを、現代のゲーム機で楽しめる作品だ。
Nintendo Switch版では12種類、Nintendo Switch 2 Editionでは15種類のお店を収録。育成端末にはあまり興味がない人でも、かつてDSで遊んだ懐かしさから手に取りたくなるかもしれない。内容の違いは任天堂公式の紹介で確認できる。
30周年のたまごっちが、これから向かう先
2026年11月23日に迎える発売30周年に向け、記念商品やイベントなどの展開も進んでいる。さらに、指にはめて育成できる小型デバイス「Tamagotchi ring」も発表された。こちらは2026年8月に受注が始まり、バンダイの発表では2027年2月のお届け予定とされている。
1996年の初代は、バッグにつけて持ち歩く白黒の小さなペットだった。それが友達と通信するようになり、ゲームソフトになり、カラーになり、インターネットにつながり、ついには指輪サイズにまでなった。
ただ、何度もブームを起こしている理由は、機能が増えたことだけではないのだと思う。自分だけの生き物を育てる楽しさと、ちょっとした失敗まで思い出になること。そこは30年前から変わっていない。
私の場合、初代たまごっちとの思い出は「白を買えた!」という喜びと、「どこかで落とした」という間抜けな結末で終わっている。それなのに、こうして30年近くたった今でも、その日の行列や噂のことまで覚えている。
たまごっちは、画面の中のペットを育てるおもちゃだった。そして気づけば、遊んだ人の中に、思い出まで育てていたおもちゃだったのかもしれない。


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