【雑学】西瓜はスイカ南瓜はカボチャ、じゃあ東瓜と北瓜は?

「西瓜」と書いてスイカ。「南瓜」と書いてカボチャ。

どちらもおなじみの野菜や果物だけれど、こうして漢字を並べてみると、ちょっと気になることがある。

西と南があるなら、東と北もあるんじゃない?

東瓜と北瓜。いかにも存在しそうな名前なのに、日本で見かけることはまずない。そもそも何と読むのかも分からない。

そこで調べてみたところ、意外なことが分かった。実は北瓜だけでなく、東瓜という名前も存在していたのだ。しかも、同じ名前がまったく違う植物を指すことまであるという。

今回はそんな東西南北の瓜の謎から、普段何気なく使っている「〇瓜」という漢字の由来まで、ちょっと掘り下げてみたい。

目次

そもそも西瓜と南瓜は、なぜ方角が付いているのか?

まずは大前提から。

西瓜の「西」と南瓜の「南」は、ただ何となく付けられた方角ではない。どちらも中国で生まれた呼び名で、中国から見て、どちらの方面から伝わってきた瓜なのかが名前に関係している。

つまり、日本から見た東西南北ではないということ。ここが最初のポイントだ。

西瓜(スイカ)はアフリカ原産の植物。中国には西方の地域を経由して伝わったとされ、そのため「西から来た瓜」という意味で西瓜と呼ばれるようになった。

一方の南瓜(カボチャ)は、熱帯アメリカ原産。中国から見て南方の地域を経由して伝わったことが、その名前につながっている。

カボチャという日本語の名前も面白い。16世紀にポルトガル人がカンボジアから日本へ持ち込んだとされ、当初は「カボチャ瓜」と呼ばれていたという。カンボジアがカボチャになった、というわけだ。

この由来については、鹿児島県指宿市のカボチャ紹介ページでも説明されている。

なるほど。中国を中心にして名前が付いたわけね。となると、東と北にも何かありそうだけど……。

では、いよいよ本題に入ろう。

北瓜は本当に存在した!ただし、その正体はややこしい

まずは北瓜から。

結論からいうと、北瓜という名前は、古い中国の文献にも登場する実在の言葉だった。

漢字文化資料館の解説によると、『大漢和辞典』には「北瓜」が収録されており、中国の古い植物書『群芳譜』から、その特徴が紹介されている。

それによれば、北瓜はスイカに似ているものの、実は小さく細長く、とても甘い。実る時期もスイカとほぼ同じだったという。

つまり昔の北瓜は、スイカの仲間のような果実を指していたらしい。

ところが話はここで終わらない。

現代の中国では「北瓜」という言葉が、カボチャの仲間を指す地域的な名称としても使われているのだ。

実際に中国の農業農村部が公開している農業規格「NY/T 747—2020」では、「北瓜」がカボチャ属の植物である「笋瓜(シュングア)」や、冬瓜の近縁種である「節瓜」の別名に挙げられている。

さらに2021年には、中国・上海市の崇明区で栽培されている「北瓜」がニュースになった。こちらは黄色く、香炉に似た形をした珍しいカボチャの仲間だという。

その様子は、人民網の上海版記事で写真付きで紹介されている。

北瓜は、時代や地域によって指す植物が異なる名称。古い文献の北瓜と、現代中国で北瓜と呼ばれるカボチャ類を、同じ品種だと考えない方がよい。

かつてはスイカに似た甘い果実。現在ではカボチャの仲間など。東西南北の名前をそろえるために調べ始めたのに、いきなり話が複雑になってきた。

東瓜は存在しない?と思いきや、意外なところに発見

続いて東瓜。

こちらは北瓜よりもさらに厄介だ。

日本の一般的な植物名として「東瓜」は定着しておらず、漢字文化資料館でも、東瓜という言葉はどうやら存在しないようだと解説されている。

中国から見て東側といえば、朝鮮半島や日本列島。もしそこから特別な瓜が伝わっていたら、東瓜という名前が付いたのかもしれない。

しかし、それでは少々つまらない。もう少し調べてみたところ、思いがけない資料を見つけた。

なんと、中国の農業農村部が公開している農業規格「NY/T 747—2020」(PDF)に、はっきりと「东瓜」という名前が掲載されているのだ。

中国の簡体字で「东瓜」、日本の漢字に直せば「東瓜」。では何の植物かというと……。

東瓜は、中国で「冬瓜(トウガン)」の別名として使われる表記だった!



冬瓜と東瓜。日本語の音読みでもよく似ているが、中国語ではどちらも「ドングア(dōngguā)」と発音する。


ただし、これは西瓜や南瓜のように「東から来た瓜」という意味で名付けられたものではない。あくまで冬瓜の別表記・別名という位置付けだ。

中国では通常「冬瓜」と書くため、東瓜が独立した野菜の名前として広く使われているわけでもない。

東瓜がないと思ったら、冬瓜の別名だったとは。しかも中国の農業資料にちゃんと載っているのが面白い。


日本語の常識だけで考えると存在しないように見える名前でも、隣の国の言葉まで調べると別の答えが出てくるものらしい。

西瓜・南瓜・東瓜・北瓜を並べてみると?


ここまでの調査を整理すると、次のようになる。


漢字指すもの位置付け
西瓜スイカ中国の西方から伝わったことに由来
南瓜カボチャ中国の南方を経由して伝わったことに由来
東瓜トウガン中国で「冬瓜」の別表記として使用
北瓜古い文献ではスイカに似た果実、現代ではカボチャ類など時代・地域によって意味が異なる

なんと、東西南北が一応そろってしまった。

ただし、ここは少し注意が必要。西瓜と南瓜は方角が名前の由来になっているのに対し、東瓜は冬瓜の別表記。北瓜は地域や時代によって対象が違う。

つまり、東西南北それぞれの方向からやってきた、4種類の瓜があるわけではないということだ。

むしろ、それぞれの言葉がまったく違う経緯で生まれているところが面白い。

ほかにもこんなに!「〇瓜」の漢字20種類一覧

さて、東西南北の謎が解けたところで、今度は「瓜」の付く言葉を集めてみた。

キュウリやゴーヤのような身近な野菜から、ちょっと読めそうにないものまで、実に多彩。ここでは「一文字+瓜」という形の20種類を紹介する。

なお、同じ植物の別名や、主に中国で使われる名称も含めている。

漢字読み方正体・意味
西瓜スイカアフリカ原産のスイカ。西方から中国に伝わった瓜
南瓜カボチャおなじみのカボチャ。南方を経由して伝来
東瓜中国語でドングア中国で冬瓜を指す別表記。日本では一般的でない
北瓜中国語でベイグア古くはスイカに似た果実。現代ではカボチャ類などの別名
冬瓜トウガン夏に収穫されるが、保存性が高く冬まで食べられる瓜
胡瓜キュウリ中国の西域を表す「胡」の字が付いた野菜
黄瓜キュウリキュウリの別表記。中国語では一般的な名称
苦瓜ニガウリゴーヤのこと。苦味が特徴
糸瓜ヘチマ成熟すると内部に糸状の繊維が残る
白瓜シロウリ奈良漬などの漬物に使われる瓜
青瓜アオウリシロウリの別名・古い呼び名
甜瓜マクワウリ甘みのあるメロンの仲間。甜は「甘い」の意味
香瓜コウカ中国で甘いメロン類、マクワウリなどを指す名称
甘瓜アマウリマクワウリの別名
熟瓜ホゾチよく熟したマクワウリ
烏瓜カラスウリ秋に赤い実を付ける、野山に生える植物
王瓜カラスウリ日本ではカラスウリの表記にも使う。漢名からの誤用とされる
越瓜シロウリシロウリの別表記。中国南部の地名「越」に由来
水瓜スイカ水分の多いスイカの別表記
木瓜ボケ春に花を咲かせるバラ科の植物。ウリ科ではない

※読み方は日本語での一般的な読みを基本とし、日本語で定着していない「東瓜」「北瓜」は中国語の発音をカタカナで示した。また、中国語と日本語では同じ漢字でも指す植物が異なる場合がある。

こうして見ると、色・味・香り・産地・季節など、名前の付け方も実にさまざまだ。

そして、いくつかの名前には、さらに面白い話が隠されている。

「〇瓜」に隠された、ちょっと面白い雑学

一覧を眺めていて気になった名前を、もう少し詳しく見てみよう。

冬瓜は冬の野菜ではなかった

冬瓜(トウガン)と聞けば、当然ながら冬の野菜を想像する。

ところが実際の旬は夏。夏から秋にかけて収穫される野菜なのだ。

それなのに冬瓜と呼ばれるのは、保存性が高く、条件がよければ冬まで保存できることに由来するという。

ほかにも、熟した果実の表面に白い粉が付き、それが冬の霜に見えることから名付けられたという説明もある。

夏に採れるのに冬瓜。さらに中国では東瓜とも書く。すっかり季節と方角が入り乱れている。

糸瓜が「ヘチマ」と呼ばれる理由は、いろは歌にある?

糸瓜(ヘチマ)の名前にも、妙な語源説がある。

ヘチマはもともと「イトウリ」と呼ばれ、それが縮まって「トウリ」になったという。

そこからさらに一ひねり。

いろは歌の「いろはにほへとちりぬるを」を思い出してほしい。「と」は「へ」と「ち」の間にある。

つまり「へ」と「ち」の間だから「へち間」。これがヘチマになった、という説だ。

さすがに出来すぎた話にも聞こえるが、この語源説は古くから伝えられ、国立国会図書館のレファレンス協同データベースでも関連文献が紹介されている。

もっとも、語源については別説もあり、これが確定した由来というわけではない。

それにしても、野菜の名前にまで言葉遊びが入り込んでくるとは、なかなか楽しい。

木瓜は、そもそもウリの仲間ですらない

今回の一覧の中で、少し異質なのが木瓜(ボケ)。

ボケは春になると赤や白などの花を咲かせる落葉低木。庭木や盆栽でもおなじみの植物だ。

漢字にはしっかり「瓜」が入っているのに、植物の分類ではウリ科ではなく、なんとバラ科。

スイカやキュウリの親戚どころか、分類上はバラやリンゴに近い仲間なのである。

しかも「木瓜」という表記は、読み方によってボケ以外の植物を指す場合もある。

漢字だけで植物の仲間を判断するのは、どうやら危険らしい。

胡瓜と黄瓜、同じキュウリなのに字が違う

キュウリは日本では「胡瓜」と書くのが一般的だが、中国語では「黄瓜」という表記が広く使われている。

普段のキュウリは緑色なのに、なぜ黄色なのだろう。

実はキュウリは、十分に成熟すると実が黄色くなる。私たちが普段食べている緑色のキュウリは、まだ若いうちに収穫されたものなのだ。

一方、「胡瓜」の「胡」は中国から見た西方の地域を表す言葉。こちらは伝来の経路に関わる名称とされている。

同じキュウリでも、色に注目するか、どこから来たのかに注目するかで、漢字が変わってしまうわけだ。

ちなみに、同じようなことはマクワウリにも当てはまる。「甜瓜」「甘瓜」「香瓜」と、甘さや香りに着目した呼び名がいくつもある。

昔の人も、野菜や果物の名前を付けるときには、いろいろと頭をひねっていたのかもしれない。

結局、東西南北の瓜はそろっていたのか?

今回の疑問は、実に単純なものだった。

西瓜がスイカで、南瓜がカボチャなら、東瓜と北瓜は何なのか。

調べてみると、北瓜は古い中国の文献に登場し、現代でも地域によって使われる植物名だった。そして東瓜も、中国で冬瓜の別表記として存在していた。

ただし、それぞれが東西南北から伝わった4種類の植物というわけではない。名前がそろっているようで、その由来はバラバラだ。

さらに、ほかの「〇瓜」を調べれば、冬に収穫しない冬瓜、漢字の読み方が言葉遊びになっているという糸瓜、ウリ科ではない木瓜など、予想以上に面白い名前が次々に出てきた。

考えてみれば、野菜の名前には、産地や見た目、味、伝わった経路、昔の人の感覚まで、いろいろな歴史が詰まっている。

普段は気にも留めない二文字の漢字が、ちょっとした歴史や言葉の研究につながるというのだから、雑学というのは面白い。

次にスーパーで冬瓜を見かけたら、きっと「東瓜でもあるんだよね」と思い出しそう。だからどうした、という話だけど。


それにしても、東西南北をそろえようとしただけで、こんなに話が広がるとは思わなかった。

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