スマホを数回タップすると、知らない人がバイクや自転車でご飯を持ってきてくれる。
Uber Eatsが日本に上陸した頃、ずいぶん未来的なサービスが始まったように見えた。
でも考えてみれば、日本人はUber Eatsが来る何百年も前から「できあがった料理を家まで持ってきてもらう」ということをやっている。
日本のフードデリバリーは、スマホどころか電話すらなかった江戸時代から続く「出前」の延長線上にある。
そば、寿司、うなぎ。昭和にはラーメンやカツ丼を積んだおかもちが町を走り、1980年代には宅配ピザが登場。2000年には出前館がネット上に町の出前を集め、2016年にはUber Eatsが「料理を作る店」と「運ぶ人」を分離した。
そして2020年代。
Uber Eats、出前館、Wolt、menu、DiDi Food、foodpanda、FOODNEKO。街には見たことのない色の配達バッグが次々に現れ、数年後にはその多くが消えた。
さらに2025年にはRocket Nowが参入。2026年にはWoltが日本撤退、menuも9月末で終了予定となり、勢力図はまた大きく変わろうとしている。

ご飯を運んでいるだけに見えるのに、裏側ではものすごい消耗戦が続いている。
今回は、日本人がいつから「出前」を取るようになったのかを江戸時代までさかのぼりながら、現在まで続く日本のフードデリバリーの歴史を追ってみる。
江戸時代にはすでに「料理を届けてもらう文化」があった


出前の起源には諸説あるものの、江戸時代にはすでに、店で作った料理を客のいる場所へ届ける文化が存在していたとされる。
背景にあったのが、江戸という巨大な消費都市だ。
文化庁の食文化調査によると、享保6年(1721年)頃の江戸は町方と寺社だけで約50万人、武士を含めれば総人口は100万人規模だったとみられている。しかも町方人口は男性が多く、外で調理された食事を利用する文化が発達した。江戸前のすし、てんぷら、うなぎ、そばなどが大流行したのもこの時代だ。
参考:文化庁「すし・てんぷら・うなぎ・そばに関する年表(江戸前を中心に)」
当時の江戸は、今でいう大都市の単身者向け外食市場に近い。自宅で毎食きっちり料理するより、屋台や店の料理を利用する方が都合のいい人がたくさんいた。
その中でも、そば、寿司、うなぎなどは後の時代まで出前の代表格として残っていく。
現代なら「一人暮らしで自炊するのが面倒だからUber Eats」。江戸時代なら「今日はそばを持ってきてもらおう」。道具は違っても、人間の面倒くさがり方はあまり変わっていない。
昭和の出前を支えた「おかもち」とスーパーカブ


明治以降、「出前」という言葉が料理を客先へ届ける商いを指す言葉として広まり、昭和になると自転車、そしてバイクが出前の風景を大きく変えた。
昔の写真で目を疑うのが、自転車の肩口までそばのせいろや丼を何段も積み上げて走る出前持ち。1929年の新聞記事には、一つの盆に6個ほどの丼を載せ、それを5段、合計30個ほど運ぶ出前持ちの話まで残っている。
もちろん、こんな芸当を誰にでもやらせるわけにはいかない。
戦後は料理を水平に近い状態で運びやすくする「出前機」が普及し、銀色の箱型容器「おかもち」とともに、昭和の出前を象徴する道具になっていった。
そして、もう一つの主役が1958年に登場したホンダ・スーパーカブ。
Hondaの75年史には、開発コンセプトの一つとして「そば屋さんの出前持ちが片手で運転できるバイク」が掲げられていたことが記録されている。クラッチレバー操作を必要としない自動遠心クラッチは、配達のように発進と停止を繰り返す仕事とも相性がよかった。
昭和の頃に出前と相性がよかったのは、そば・うどん、寿司、うなぎ、町中華、ラーメン、食堂、丼物など。特に町中華は強い。ラーメン、チャーハン、餃子、中華丼、カツ丼まで、一軒でかなり幅広い注文に対応できた。
現在のアプリ型デリバリーが「たくさんの店を一つのアプリに集める」仕組みなら、昭和の町中華は一軒の店でメニューを増やし、近所の需要を丸ごと引き受けていた。
電話一本で注文し、店の人が料理を持ってきて、器はあとで回収。GPSもキャッシュレス決済もないのに、地域の店と客との信用だけでかなり高度なデリバリー網が成立していた。
「出前」から「デリバリー」へ。宅配ピザとインターネットが変えたもの


昔ながらの「出前」と、現在の「デリバリー」の境目を象徴する出来事が1985年に起きる。
1985年9月30日、東京・恵比寿に日本初の宅配ピザ店としてドミノ・ピザ恵比寿店がオープンした。
それまでの出前は、基本的に「店で食べられる料理を近所にも運びます」という商売だった。
宅配ピザは違う。料理、箱、注文受付、配達バイク、店舗設計まで「家へ届けること」を前提に作られている。
ここから宅配寿司、宅配弁当など、店内飲食よりも配送を中心に据えた業態が広がっていった。
次の転換点は2000年。
同年10月、デリバリー総合サイト「出前館」がオープンする。
参考:株式会社出前館「沿革」
当時の革命は「出前館自身が料理を運ぶこと」ではない。
冷蔵庫に貼られていた出前チラシや電話帳の情報を、インターネット上の一つの場所へ集めたことだった。
2010年にはスマートフォン専用アプリを提供開始。加盟店舗数は2019年に2万店、2021年12月には10万店を突破した。
Uber Eatsが日本へ来る16年前から、日本にはすでに「ネットで店を選んで出前を頼む」仕組みが存在していたことになる。
2016年、Uber Eatsが「店員が運ばない出前」を日本へ持ち込んだ


2016年9月29日午前11時、Uber Eatsが東京の一部地域でサービスを開始した。
最初のエリアは渋谷・恵比寿、青山・赤坂、六本木・麻布など。スタート時から150店以上のレストランが参加していた。
参考:Uber Japan「UberEATS、東京で開始!」
ここで日本の出前は大きく変わった。
昔ながらの出前では、料理を作った店が配達員も抱える。そのため「料理は作れるけれど、人を雇って配達まではできない」という店は出前に参入しづらかった。
Uber Eatsでは、店と配達員が別々にプラットフォームへ参加する。
店は料理を作る。配達員はアプリで配達依頼を受ける。客はアプリで注文し、GPSで配達状況を見る。
この仕組みによって、それまで出前をしていなかった個人店、カフェ、専門店までデリバリーへ参加できるようになった。
2021年9月には47都道府県での提供に到達。料理だけでなく、コンビニ商品、日用品、OTC医薬品などにも領域を広げていった。
江戸から続いてきた「店が客へ料理を届ける出前」が、「巨大なプラットフォームが店・客・配達員を結び付ける配送網」へ変わった瞬間だった。
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2020年、コロナ禍で始まったフードデリバリー戦争


そして2020年、新型コロナウイルスの流行によって外食が大きく制限される。
飲食店は店内客を失い、客は外へ出にくくなった。その間を埋めるサービスとして、フードデリバリーへ一気に注目が集まった。
ここからが本当の乱戦だった。
| サービス | 日本での主な動き | その後 |
|---|---|---|
| Uber Eats | 2016年に東京で開始 | 現在も継続。全国展開し、料理以外にも拡大 |
| 出前館 | 2000年からネット出前を展開 | 現在も継続。Uber型の配達にも本格参入 |
| Wolt | 2020年3月に広島から日本展開 | 2026年3月4日で日本サービス終了 |
| DiDi Food | 2020年に大阪から展開 | 2022年5月25日で日本サービス終了 |
| foodpanda | 2020年9月に日本進出 | 2022年1月末に日本でのサービスを終了 |
| FOODNEKO | 2020年12月に東京で開始 | 2021年4月27日で終了しfoodpandaへ統合 |
| menu | 2020年にデリバリーを本格展開 | 2026年9月30日でサービス終了予定 |
| PickGo | 2020年4月に買い物代行を開始 | 飲食専門ではなく、買い物・即日配送へ展開 |
| Rocket Now | 2025年1月に日本で開始 | 2026年に全国規模へ急拡大 |
特に短命だったのがFOODNEKO。2020年12月に始まり、サービス料なし、基本配達料なし、最低注文金額なしという「3つのナシ」を掲げたが、2021年4月にはfoodpandaとの統合が決まり、4月27日にブランドとしてのサービスを終了した。
参考:Delivery Hero Japan「foodpandaとFOODNEKOがサービス統合へ」
そのfoodpandaも長くは続かなかった。運営元Delivery Heroは2021年12月、日本事業の売却方針を発表。日本市場には2020年9月に参入したばかりだったが、2022年1月末にはサービスを終了した。
参考:Delivery Hero「foodpanda Japanの事業見直しについて」
DiDi Foodも2022年5月25日に終了。同年には楽天ぐるなびデリバリー、DoorDashブランドなども相次いで姿を消し、コロナ禍で一気に増えたプレイヤーは急速に整理されていった。
参考:Impress Watch「フード宅配のDiDi Food日本撤退」
一方、PickGoは少し毛色が違う。飲食店の料理だけを扱うのではなく、2020年4月からプロの配送ドライバーによる買い物代行を始め、食品や日用品など「今ほしい物を運ぶ」即日配送へ広げた。
そして2026年。Woltは3月4日で日本サービスを終了し、menuも9月30日で終了することが決まった。
Woltは撤退理由について、持続的な規模拡大と長期的な優位性を実現できると判断した地域へ投資を集中する方針だと説明している。menuについてもKDDIは「競争環境の変化や今後の事業見通し」を総合的に検討した結果として終了を決めた。
参考:Wolt「日本におけるサービスの終了について」/KDDI「menuの提供終了について」



2020年頃の街で見かけたバッグを思い出すと、本当に数年で景色が変わった。
なぜ次々と消えた? フードデリバリーが「見た目以上にきつい商売」な理由


フードデリバリーは、一見すると単純な商売に見える。
店から料理を受け取り、客へ届け、その間から手数料を取る。
ところが、プラットフォームを大きくしようとすると話が変わる。
- 注文してくれる客を集める
- 掲載してくれる加盟店を集める
- 料理を運ぶ配達員を集める
- 注文が少ない時間帯にも配達網を維持する
- 雨、猛暑、イベント時など注文急増にも対応する
- 遅配、欠品、破損、誤配などのサポートを行う
- それでも客が払える金額に収める
しかも新規参入したばかりのサービスは、客には割引クーポン、加盟店には営業、配達員には高い報酬や紹介キャンペーンを用意しなければ、三者を同時に集めにくい。
つまり成長期ほど、お金が出ていく。
これは現在の出前館を見ると分かりやすい。
出前館は2025年9月以降、「お店価格で出前館」を広げ、2026年7月には参加店舗が2万3,000店超まで拡大。オーダー数やアクティブユーザー数も前年同期比で成長へ戻している。
その一方で、2026年8月期第3四半期の営業損失は32億円。通期では市場拡大を優先して成長投資を行うとして、営業利益予想を79億円の赤字へ修正している。
参考:出前館「2026年8月期 第3四半期 決算説明会資料」
「注文が増えている」ことと「利益が出ている」ことは、フードデリバリーでは必ずしも同じではない。
値引きや店頭同価格で注文数を増やせても、その差額や配送コストを誰かが負担しなければならないからだ。
出前館がすぐにどうなるという話ではない。実際、同社は成長投資のピークを第3四半期として、第4四半期には損失改善を見込んでいる。
ただ、Uber Eatsだけでも厳しかったところへ、さらに資金力のある新規プレイヤーが入ってくれば、競争が楽になる方向ではない。
2025年、Rocket Nowが「第二次デリバリー戦争」を始めた


大量撤退で市場が落ち着くかと思われたところへ、2025年1月14日、新しいプレイヤーが入ってきた。
韓国の大手EC企業Coupang系の「Rocket Now(ロケットナウ)」だ。
利用者から見て分かりやすい武器は
送料0円・サービス料0円
さらに2026年9月時点では、1万店以上で「お店と同価格」を掲げている。公式サイトにも対象店舗数や価格は変更・中止となる場合があると明記されているものの、利用者にとってはかなり強烈な訴求だ。
拡大の速さも目立つ。2026年8月には46都道府県・420都市へサービスエリアを拡大し、9月には累計800万ダウンロードを発表した。
2020年頃の戦争では、各社が「初回○円引き」「配送料無料」といったキャンペーンで利用者を奪い合った。
Rocket Nowは、それをさらに一歩進めて、普段使いの料金そのものを安く見せる戦い方をしている。
そしてその時期と重なるように、2026年にはWoltが撤退し、menuも終了を決定した。
もちろん、二社の撤退をRocket Nowだけが引き起こしたと考えるのは乱暴だ。それぞれ親会社の投資方針や事業見通しも関係している。
ただ、いったんプレイヤーが減って落ち着きかけていた日本市場が、再び激しい価格競争へ入ったことは間違いない。
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しかも送料&手数料も無料、おトクにデリバリーを頼みたい方は利用してみてください。
手順は2ステップ
※初回注文前の人が対象です。
この先どうなる? 数年後はUber EatsとRocket Nowの争いになるのか


ここから先は確定した未来ではなく、2026年9月時点の状況を見た私の予想になる。
私は数年後、日本のフードデリバリー市場がさらに少数の会社へ集約され、Uber EatsとRocket Nowが中心になって争っていても不思議ではないと思っている。
理由の一つは、Rocket Nowが現在やっている「送料・サービス料0円」「お店と同価格」という施策。
利用者からすれば歓迎しかない。
ただ、配達料金が0円でも、配達するためのコストまで0円になるわけではない。
配達員への報酬、サポート、システム開発、広告、加盟店営業。誰かがその費用を負担している。
だから私は、今の価格を「完成された最終形」というより、日本市場で利用者と加盟店を一気に増やすための種まき期間として見ている。
そして重要なのは、Rocket Nowにはその種まきをある程度長く続けられそうな背景があること。
親会社のCoupangは巨大なEC・物流企業で、2026年6月末時点の現金・現金同等物・使途制限付き現金は合計62億ドル。もちろん、その全額を日本のフードデリバリーへ自由に投入できるわけではないが、新規市場へ先行投資できる企業体力を見る一つの材料にはなる。
参考:Coupang 2026年第2四半期 Form 10-Q
対するUberも小さくない。
Uberの2026年第2四半期は、Delivery部門のGross Bookingsが前年同期比26%増の約274.6億ドル。Delivery部門のセグメント営業利益も前年同期の7.66億ドルから10.55億ドルへ増えている。
つまり、一方はすでに世界規模で巨大な配送ネットワークを持つUber。もう一方はECと物流で巨大化したCoupangを背景に、日本で猛烈に利用者を増やしているRocket Now。
その間にいるのが出前館。
2000年から日本のネット出前を作ってきた老舗だけれど、私は正直、現在の三社の中では最も先行きが厳しいと見ている。
2026年8月期第3四半期は、四半期だけで31.7億円の営業赤字。第1四半期からの累計では約63.7億円まで膨らみ、通期の営業損失予想も当初の40億円から79億円へ下方修正された。
オーダー数や利用者数そのものは再び伸び始めている。しかし、その成長を取り戻すために使っている金額も大きい。
「注文が戻ってきたから安心」という段階ではなく、むしろ大きな赤字を出してでも利用者を取り戻さなければならないところまで追い込まれている、と見る方が私は近いと思う。
さらに配達する側から見ると、以前に比べてオファー単価はかなり下がった。2026年には400円台の案件を目にするという配達員の声も珍しくなくなっている。
単価を下げれば配送コストは抑えられる。でも、それで配達員がUber EatsやRocket Nowへ流れれば、今度は注文を運ぶ人が足りなくなる。実際、出前館自身も悪天候や早朝・深夜などには、安定した配送のため追加報酬を出して配達員を確保している。
そして、これは数字にしづらい部分だけれど、複数の配達アプリを使っている側から見ると、アプリの仕様やオファーの出し方など、技術面でもUber Eatsなどに比べて一世代古く感じる場面がある。
世界規模で配送アルゴリズムを磨き続けてきたUber Eatsと、Coupangの資金力を背負って日本市場へ大量投資しているRocket Now。その二社に対して、出前館は「価格」「配達員」「技術」「資金力」のすべてで同時に戦わなければならない。
もちろん、企業の将来を断定することはできない。
ただ、現在の数字を見る限り、私は「Uber Eats・Rocket Now・出前館の三強がそのまま残る」未来より、出前館が競争から脱落し、最終的にUber EatsとRocket Nowが正面から殴り合う市場になる可能性の方を高く見ている。



もうフードデリバリーは過渡期に入ってて、これ以上裾野を広げるの事態が厳しいのかもしれないね。
そして、もし最終的に二社や三社まで絞られ、利用者獲得競争が落ち着いたらどうなるか。
今のような送料0円、サービス料0円、店頭同価格といった利用者にとっておいしい条件が、そのまま残るとは限らない。
むしろ2026年現在は、フードデリバリーを安く使える最後の大バーゲン期間の途中なのかもしれない。
江戸のそば屋とUber Eatsは、結局同じ欲求を運んでいる


ここまで並べてみると、技術はものすごく変わった。
江戸では徒歩。昭和は自転車、おかもち、スーパーカブ。平成は電話、宅配バイク、インターネット。令和はスマホ、GPS、アルゴリズムによる配車。
それでも、客側の要求は驚くほど変わっていない。
今日は作りたくない。
店まで行きたくない。
でも、うまいものは食べたい。
結局これだけ。
変わったのは、そのわがままを叶える仕組みの方だった。
近所のそば屋が自分で料理を運んでいた時代から、全国の飲食店、何万人もの配達員、GPS、決済システム、巨大IT企業を一つのアプリで動かす時代へ。
フードデリバリーは最近生まれた文化ではない。日本で何世代にもわたって続いてきた「出前」が、テクノロジーによって巨大なプラットフォーム産業へ姿を変えたものだった。
数年後、街を走っているバッグの色が何色になっているのかは分からない。
でも「今日はご飯を作りたくない」という人がいなくならない限り、出前そのものが消えることもたぶんない。
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